質の七つ屋と義務と権利と男と女

【義務と権利】
質屋をやっていると色んな人の悩みや愚痴を聞きます。
先日のお客さんのお話です…

30代前半の男性
自分のIWCの腕時計で10万円の質預りをご希望。
ポートフィノシリーズのその腕時計なら25万円までは
質預り出来る高級時計です。
その旨を伝えると25万円までの上限で、いくらで質預りしてもらうか考え始めました。
すると…
お客さんが話し始めました。

「七つ屋さんは結婚してるの?子供はいるの?」

結婚はしてるけど子供はいないよ

「実は最近妻に子供が産まれたのだけど、最近機嫌が悪くてさ、家にいても居心地が悪いから、久しぶりにキャバクラに行ってストレス発散しようと思ってさ…」

どうやらこのお客さんは腕時計を質に入れてキャバクラ代にするつもりらしい…

「子供の世話が大変だと思うから、家事だって手伝ってやってるのに… 子供の世話だって…

家事を手伝ってるって…
君はどんな事をやってるの?

「ゴミ捨ては旦那の義務と思ってやってます!」

ゴミ捨て?
ゴミ捨てって具体的に何やるの?

「やだな〜、ゴミ捨て場にゴミを持って行くんですよ。」

持って行くだけ?ゴミをまとめるのは?ゴミの分別は?だいたい君の家にゴミ箱はいくつあるんだい?

「妻がゴミをまとめて、僕がゴミ捨て場に持っていく。ちゃんと家事を分担してやってるのに機嫌が悪いんですよね。いつもピリピリしていてさ…」

あのな、ゴミ捨てをやってると言うなら、家の中のゴミ箱から、食事の際の生ゴミの処理、可燃不燃ゴミの分別、それらをまとめて各ゴミを出す日にそれを持って行く。ここまでやって初めてゴミ捨てなんだよ。
君がやってるのは家事のゴミ捨てではなく、ゴミ捨て場と言うゴミ箱にまとめたゴミと言う自分の使ったティシュをゴミ箱に入れる事と同じだよ。
子供でも出来る事だよ。

「でも、子供の世話だって手伝ってるし…」

手伝うって…
自分の子供の子育ては、奥さんと君が一緒になってやる事だろ、奥さんがやる子育てを手伝っていると言ってる時点でアウトだな

「そんな事言われても…」

君は家事や子育てを義務と思ってないかい?

「当たり前じゃないですか!結婚したら家事や子育てを手伝うのは男の義務と思ってます。女だけがやるなんて時代遅れですよ」

あのな、義務ってなんか嫌じゃないか?
例えば納税ね、納税は国民の義務だけど多くの人が、出来る事なら税金は払いたくないとおもってるよね。

「当たり前じゃないですか、税金を喜んで払いたい奴なんかいませんよ」

そうなんだよね。
義務ってやらされてる感があるじゃない?
義務って自分の意思と関係なくやらなきゃ行けない事なんだよ。
君の家事や子育て云々は義務と思ってる事自体が奥さんの機嫌を悪くさせるんだよ。

「そんな事言われても…」

だから意識を変えるんだよ。
義務から権利へとね。

「義務から権利?」

そう!
家事を手伝うのは男の義務ではなく、愛する家族の為に君だけが出来る特別な権利。
子育ても義務ではなく、奥さんとの愛の結晶であるお子さんを大きくなるまで父親として参加出来る特別な君だけの権利!
権利と考えれば面倒な事も楽しく出来るもんだよ。

僕は仕事が早く終わった時には夕飯を作るのだけど、
愛する妻の夕飯を作る事は、僕にだけ許された特別な権利だと思ってるよ(笑)
他の男には絶対に渡したくない権利だよ(笑)

「権利…考えた事も無かったです…」

子育ても同じだよ。
赤ちゃんウンコで汚れたオムツの処理も、夜泣する子供をあやす事も、父親に与えられた特別な権利と考えれば苦痛じゃないと思うよ、逆に楽しくなるかもね。

「なるほどね…」

試しにキャバクラに行ってそこの女の子達にこの話しをしてみなよ。
どんな反応をするか?調査してみなよ。

「わかりましたよ、とりあえず行って来るので10万円でお願いします。」

そう言って、このお客さんは10万円と質札を持って質の七つ屋を後にしました。

時は流れて、約2ヶ月後の風の心地良い昼下がり…
義務と権利の話をしたお客さんが赤ちゃんを抱っこした奥さんと一緒に来店しました。

「時計を出しに来ました。今日は妻と子供を連れて来ました。妻がどうしても七つ屋さんと話がしたいと言ってうるさかったんですよ。」

これはこれは…ありがとうございます。

『この度は主人を指導して頂きありがとうございました。最近主人が家事を率先してやってくれて、聞くとこれは俺だけの特別な権利なんだから…とかなんとか、何かにつけて権利権利と笑顔で言うので、しつこく問い詰めたら白状しました(笑)」

どうやら彼はあの後、時計の質預りで得た10万円を持って本当にキャバクラに行って女の子達にこの話をしたようです。
すると女の子の全員が権利と考えてくれる男性と結婚したいと言っていたようです。

それから、家の事を義務ではなく権利なのだと考えて生活すると…

これが意外と楽しい!

それに妻の機嫌がだんだんと良くなり、家の中がどんどんと明るくなって行ったそうです。

奥さん曰く
『私が一番辛い時に質屋に借金をしてまでキャバクラに行った事には殺意が湧いたが、話を最後まで聞くと
そのキャバクラの女の子達とその質屋さんには感謝しかありません。本当にありがとうございました。』

時計を出質てそのご家族は何度も何度もお礼を言って帰って行きました。

実はこの義務と権利の話で何十と言う夫婦の危機を救っている位に質の七つ屋のカウンター越しで話しております。

世の男性諸君
家族の為に生きれる事は貴方だけに与えられた特別な権利なのですよ…^_^

※質の七つ屋では最新の防犯カメラによる動画撮影を行なっております。お店の中の出来事は全て記録しております。ー 場所: 質の七つ屋

コロナ時代の質屋のススメ(その1)

緊急事態宣言が解除されて、街に人が戻りつつありますね。
先日、久しぶりに電車に乗ろうと駅に行くと、ホームが学生さんでいっぱいでした。
なんか複雑な思いがしましたね….

さて、コロナの影響が日本の経済を直撃しております。
飲食店やイベント関係、音楽関係やスポーツ関係も大ダメージ。

事業主様だけではなく、一般のご家庭の財布にも直撃の様です。

一時は持続化給付金や各種補助金で凌げるかも知れません。
でも、すぐに底をつきます。
金融機関からの融資も受けやすようです。
しかし、融資を受けたらお金は返さないとダメですよね?

そんな不景気なご時世も質屋営業ならご安心。

鎌倉時代から存在する質屋は不景気に最大の力を発揮します。

質屋業の特性は金融業と古物商の2つの顔を持っている事です。

次回のブログでは、他の金融業と質屋の違いと質屋の優位性について書きたいと思います。

続く…..

通常営業再開のお知らせ

緊急事態宣言解除に伴い6月1日より通常営業を再開いたします。

但し、時世の変化により臨時休業及び営業時間の変更する可能性がありますので、

事前に電話及びメールでお問い合わせいただくと確実です。

宜しくお願いします。

質屋とグランブルーと末期癌

TRIGO株式会社の直営店『質の七つ屋湘南本店』でのお話しです。

『グランブルー』と言う映画をご存知でしょうか?
1988年公開のフランス映画で監督はリック・ベンソン。
フリーダイビングの天才ダイバー『ジャック・マイヨール』のお話しです。
*そんな私も『グランブルー』の海とイルカの映像美にハマりました。

グランブルーは未だに根強い人気を誇る伝説的な作品であり、その主人公のジャック・マイヨールも伝説的なダイバーである。
そんなジャック・マイヨールの名前がついている時計があるのです。

オメガシーマスター120ジャック・マイヨールモデル限定4500本

この時計を廻る質屋とお客様の事を簡単に書いていきます。

昨年の霜月の中頃の事です。
もう店を閉めようと思った矢先に彼はやって来ました。

彼は20代半ばの会社勤めの常連の男の子。
最初の出会いは大学の教科書の質預り、からの5年位の付き合いである。

その日の彼の質草はいつもの時計。
その時計が上記に書いたオメガシーマスター120ジャック・マイヨールモデル(限定品)なのです。
彼の父親がグランブルーの大ファンで、子供頃から一緒にビデオで見ていたそうです。
それが高じて、彼はジャック・マイヨールのファンになり、海が大好きになり、この時計を買ったそうです。

いつもはその時計で5万円の預りの所、その日は8万円での預り希望でした。

本来、彼のジャック・マイヨールなら質預りの限度額は7万円。
そんな話をしていると、今回の8万円の使い道を語り始めました。

「実は・・・父が末期癌で余命宣告をされました。最期の思い出作りに父と母と3人で旅行に行きたいのです。」
子供の頃に親子3人で旅行した伊豆の温泉へ、僕が両親を連れて行きたいのだと涙を流しながら私に訴えかけます。

「わかったよ…8万円で預かるから、思いっきり親孝行をしてくるんだぞ。」
私は質札を書き、現金と一緒にその質札を渡す。

「確認してね」
「七つ屋さん、1枚多いですよ。9万円あります」
「その1枚は俺からのお見舞いだよ、実は昨日競馬で万馬券を取ったから、そのお裾分けだから遠慮するなよ。」

そうしてのジャック・マイヨールは通算8回目の質預りで、また質蔵にしまわれていきました。

そして月日は流れ、半年後の5月のある日…
質の七つ屋に一人の初老の男が来店し1枚の質札を差し出してきました。。
「3か月程前に期限が切れていますが、まだ品物があれば出したいのですが….もう無いかな…」
差し出された質札を見ると、半年前に質預りしたジャック・マイヨールの彼の質札だったのです。

質預りした本人とは明らかに別人のその初老の男に少しだけ警戒心を抱きながら事情を聴きだします。

「ご本人ではないですよね?」
「はい。私は父親です…」

カウンター越しに私と対峙していたのは、余命宣告をされていた末期癌の父親でした。

一瞬、この父親が元気になったのかと思いましたが、父親の尋常ない程の真剣な眼差しが、そうではない事を物語っていました。

「実は息子が癌で亡くなりました。遺品を整理していたら1枚の私宛の封筒から、遺書と七つ屋さんの質札が出て来ました。遺品のどこを探しても息子の宝物であったオメガの時計が
無かった訳がわかりました。こちらに質入れしていたんですね….」

私は質屋稼業が長いだけに人の心の内を読む事が出来ます。なので騙されることが殆どないのです。
その質屋を彼は欺きました。
『末期癌だったのは父親ではなく、彼だったのです!!!』

11月に質預りした品物の期限は3か月後の2月です。
普通ならば質流れしていて、他者に売却しています。
所が、このオメガシーマスター120ジャック・マイヨールに関しては、彼が大切にしている宝物だから、
誰にも売らずに質蔵の中に取って置いたのです。

父親に其の事を伝え、時計を手渡すとその瞬間に腰が砕け、膝を床につけて号泣しだしました。

数分の間、その時計を握りしめて泣き続け、少し落ち着きを取り戻すと、
「既に期限を3か月も超えているから、息子の時計は諦めていた。
でも、もしかして….万が一….そんな思いでやって来ました….」

父親はその時計を持って帰る為の料金を支払い、何度も何度もお礼を言って帰って行きました。

質屋業を長くやっていると、月に1度は店で号泣する人がいます。
その人達の涙にも価値を見出すのが質の七つ屋のです。

困ったことがあれば何なりとご相談下さい。

質の七つ屋店主より